葬儀の基礎知識

検死とは?

「検死」という言葉をニュースやドラマで耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。そのため、「検死=事件性のある死に対して行うもの」「自分には関係のないこと」と認識している方もいるかもしれませんが、実は「検死」は誰にでも起こり得る身近な手続きです。

今回は、検死が必要になったときに慌てず対応できるよう、検死の詳細や検死の流れ、検死にかかる費用などについて解説していきます。

「検死」とは3つの手続きの総称

「検死」とは、検視・検案・解剖の手続きの総称を指します。それぞれの目的や実施者に違いがありますが、いずれも死因を正確に確定するために必要な一連の手続きです。

検視について

検視とは、事件性があるかどうかを判断するためにご遺体や死亡現場を詳しく調べる刑事手続きのことを指します。検視の実施者は警察官もしくは検視官ですが、警察官が行うケースが一般的です。

検視では、警察官もしくは検視官が死亡現場に出向き、ご遺体の外傷の有無、着衣の乱れの有無、現場の状況などを詳しく調べます。そこで第三者の関与が疑わしいと判断された場合は、その後、司法解剖に進みます。

検案について

検案とは、医師がご遺体の体表を診察して、病歴や死亡状況をもとに死因および死亡時刻を推定する手続きのことを指します。この時点で死因が確定できれば「死亡診断書」もしくは「死体検案書」が発行され、検死は終了です。

もしも、ここで死因が特定できなかった場合は、解剖へと手続きが進みます。

解剖について

解剖とは、医師がご遺体の体を切開して内部の臓器を診察し、死因および死亡時刻を推定する手続きのことを指します。死因の特定ができない場合や犯罪性の有無を判断できない場合に実施されます。

解剖は5種類あります。

1. 犯罪性が疑われる場合に行う「司法解剖」

2. 犯罪性は薄いものの死因の究明が必要な場合に行う「行政解剖」

3. 事件性はないと断定されているが死因原因を究明するために、警察署長・海上保安部長の判断で行う「新法解剖」

4. 病気で死亡した際に診断の妥当性や治療の効果を確かめるために行う「病理解剖」

5. 遺族の同意を得たうえで医学生などの教育の目的で行う「承諾解剖」

なお、1、2、3については拒否することはできませんが、4、5については遺族が拒否することが可能です。

検死が必要になるケース

検死が必要となる主なケースは、病院以外で亡くなった場合やかかりつけ医に確認ができない場合ですが、診察時に異常な点や不審点があった際には変死扱いとなるため検死が必要となります。病死や自然死の場合は、基本的には検死の必要はないとされています。

検死が必要となる具体的なケースの例

以下のケースは検死が必要になります。

・ご遺体に外傷があったり室内が荒れていたりした場合

・自殺や他殺の疑いがある場合

・死因がはっきりしない場合

・治療中ではなかった病気による突然死

・自宅や老人ホームなどで亡くなった状態で発見された場合

・交通事故により死亡した場合

・スポーツ中の事故で死亡した場合

・投薬ミスや手術ミスなど、医療事故が疑われる場合

・転倒や転落で死亡した場合

・海、川、プールで溺れて亡くなった場合

・火事で死亡した場合

・薬物などの中毒症状を経て死亡した場合

・仕事中の労働災害によって死亡した場合

・地震、落雷、津波など自然災害によって死亡した場合

・独居などで身元が不明な場合

死亡現場の状況から事故や犯罪の可能性があると疑われた場合は警察による検死が行われ、なかには司法解剖に進むケースもあります。その場合、遺族の意向は関係なく、捜査機関の判断によって検死を実施します。

検死の流れ

ここでは一般的な検死の流れについてご紹介します。

検死の流れは以下の通りです。

1.  状況確認:
警察によって、死亡した状況や死亡場所の確認・記録・証拠保全が行われます。

2. 警察署への搬送:
遺体が死亡場所から警察署の霊安室に運ばれます。

3. ご遺体の調査:
ご遺体の体表を調査します。

4. 死因特定・死体検案書の発行:
死因の推定および診断が行われます。

5.  安置場所への搬送:
ご遺体が斎場や故人の自宅などに運ばれます。

なお、ご遺体の搬送は警察や葬儀社などが状況に応じて行うため、最終的にどこにご遺体を安置かについては検死が終わる前に決めておきましょう。

検死にかかる日数

検死にかかる日数は、事件性が疑われているかどうかで大きく異なります。事件性がないと判断された場合は、ほとんどのケースが検視や検案で完結し解剖まで行われないため、早くて半日~1日、遅くとも数日以内には終わるでしょう。

一方で、事件性があると判断された場合は解剖まで行われるため、数日から1ヶ月以上かかることもあります。DNA鑑定が必要な場合は10日以上、ご遺体の損傷が激しい場合はさらに1ヶ月以上はかかるため、ご遺体が戻るまでにかなりの日数を要することを理解しておく必要があるでしょう。 

検死にかかる費用

検死のなかでも「検視」は、法律に基づいて実施される手続きのため、基本的に費用は発生しません。一方、「検案」では自己負担が必要です。検案料として2~3万円、死体検案書発行手数料として5千円~1万円程度が目安となり、これに加えてご遺体の搬送費用がかかるため、全体で3~10万円ほどになる場合があります。

また、司法解剖にはおよそ30万円の費用がかかるとされています。事件性があると判断された場合は、国がこの費用を負担するケースがほとんどです。しかし、事件性がないと判断された場合は、遺族側の自己負担になる可能性があります。これらの費用は、多くの場合、葬儀社が一時的に立て替え、後日まとめて請求されます。そのため、どの程度の金額がかかるのか、事前に葬儀社に確認しておくと安心です。

費用の負担割合については、自治体によって異なります。中には、ご遺族が全額を負担しなければならない地域もあるため、あらかじめ自治体へ問い合わせておくことが大切です。また、検死の段階で解剖まで実施される可能性があるかどうかも、警察に確認しておくと、後の対応がスムーズになります。

検死中にご家族様が行っておくべきこと

ここでは、検死期間中にご家族様が進めるべき準備をご紹介します。

葬儀社を決める

ご遺体がご家族様のもとに戻られてからようやくご葬儀を執り行うことができるため、慌てて葬儀社を選ぶことがないように検死期間中に葬儀社を決めておきましょう。

警察から葬儀社の紹介があるかもしれませんが、できれば自分で何社かを選び、そのなかから最低でも3社に相見積もりを依頼するのがおすすめです。その際に金額面はもちろん、希望通りのご葬儀ができるどうかなども比較しておくとよいでしょう。

そのためにも、どのようなご葬儀にしたいのかをご家族で話し合い、イメージを固めることが重要です。ご葬儀を執り行う場所や規模、家族葬・一日葬・一般葬などの形式、どのようなご葬儀にしたいかなど、ご家族様と共有しておきましょう。

着替えなどを準備する

ご遺体の引き取りの際、どのような状態で引き取るかは警察署によって異なるため、着替えやタオルなどを準備しておくとよいでしょう。引き取りの段階で葬儀社が決まっている場合はご遺体の搬送や引き取りについても相談できるため、やはり事前に葬儀社を決めておくことが重要だといえるでしょう。

引き取り時に必要なものを揃える

ご遺体の引き取りにはさまざまな証明書が必要になります。具体的には、死亡診断書または死体検案書、埋火葬許可証、身元引受書(葬儀社が用意)、故人様の身分証明書、引き取りをする方の身分証明書、印鑑が必要です。もしも費用負担がある場合は、その費用分の現金も準備しておきます。