葬儀の基礎知識

遺言書がないと起こる相続トラブル

「うちは財産が多くないから相続でもめることはない」

そう考えている方は少なくありません。しかし実際には、相続トラブルは資産家だけの問題ではなく、ごく一般的な家庭でも数多く発生しています。

特に問題になりやすいのが、故人が遺言書を残していなかったケースです。
遺言書がない場合、相続人全員で話し合いを行い、誰が何を相続するかを決めなければなりません。しかし家族だからこそ感情が絡みやすく、長年積み重なった不満や価値観の違いが表面化することもあります。

今回は、遺言書がないことで起こりやすい相続トラブルの事例と、事前にできる対策について解説します。

遺言書がない場合の相続はどう進む? 

法律で決められた割合がそのまま適用されるわけではない  

遺言書がない場合、相続は民法で定められた「法定相続人」が対象になります。配偶者や子ども、場合によっては親や兄弟姉妹が相続人となり、法律上の相続割合(法定相続分)が定められています。

しかし、実際の財産は預金のようにきれいに分けられるものばかりではありません。

たとえば、
 ・自宅不動産
 ・土地
 ・自家用車
 ・貴金属
 ・株式
などは簡単に分割できないため、相続人全員で「遺産分割協議」を行う必要があります。

相続人全員の同意が必要になる  

遺産分割協議では、相続人が一人でも反対すると話が進みません。
普段は仲の良い家族でも、お金や不動産が絡むと意見が食い違うことがあります。
そのため、「遺言書がない」というだけで、相続手続きが何か月も、場合によっては何年も長引くケースがあります。

兄弟姉妹の関係が悪化するケース 

「親の面倒を見ていたのは自分」という不満 

相続トラブルで非常に多いのが、介護や親の世話に関する不公平感です。
たとえば長男が実家近くに住み、何年も親の通院や介護を支えていたとします。一方で他の兄弟姉妹は遠方に住み、ほとんど介護に関わっていなかった場合、相続の場面で次のような感情が生まれやすくなります。

「介護をしてきたのに同じ取り分なのは納得できない」
「親のために仕事を減らしたのに報われない」

反対に他の兄弟からは、
「介護はしていたかもしれないが、それと相続は別の話」
という意見が出ることもあります。

こうした感情の対立は、法律だけでは解決しにくい問題です。

幼い頃からのわだかまりが再燃する 

相続の話し合いでは、財産そのものよりも過去の人間関係が問題になることがあります。

・昔から親にひいきされていた
・学費の負担に差があった
・家業を継いだ、継がなかった

こうした何十年も前の出来事が、相続をきっかけに再び持ち出されることも珍しくありません。結果として兄弟姉妹の関係が完全に断絶してしまうケースもあります。

実家や土地をめぐるトラブル 

誰が実家を相続するのか決まらない 

預金なら分けやすいものの、不動産はそうはいきません。
たとえば相続財産の大部分が実家だった場合、

 ・長男は住み続けたい
 ・長女は売却して現金化したい
 ・次男は自分の取り分だけほしい

など、それぞれの希望が異なることがあります。

不動産は簡単に分割できないため、話し合いがまとまらないと長期間放置されることもあります。

空き家問題につながることも 

相続人同士で結論が出ないままになると、実家が空き家として放置されるケースもあります。

すると、
 ・固定資産税が発生する
 ・建物が老朽化する
 ・草木が伸び近隣トラブルになる
 ・管理責任が曖昧になる
といった新たな問題が発生します。

誰も住まない家が、家族の大きな負担になってしまうことも少なくありません。

「少ない財産だから大丈夫」が通用しないケース 

預金数百万円でも争いになる 

相続トラブルというと、大きな資産を持つ家庭を想像する方もいます。しかし実際には、数百万円程度の預金をめぐって争いになるケースもあります。なぜなら問題は金額ではなく、「公平感」にあるからです。

たとえば、
 ・葬儀費用を誰が負担したか
 ・生前に援助を受けていた兄弟がいるか
 ・介護負担に差があったか
などによって、相続人それぞれが「自分は損をしている」と感じることがあります。

生前贈与が発覚して対立する 

相続の際に、
「実は長男だけ住宅購入資金を援助してもらっていた」
「親からまとまったお金をもらっていた」
という事実が明らかになることがあります。

すると他の相続人から、
「それなら相続分を減らすべきではないか」
という意見が出て、協議が難航する場合があります。

故人が生前に説明していれば問題にならなかったことでも、亡くなった後では真意を確認できないため、トラブルが深刻化しやすいのです。

再婚家庭や疎遠な親族がいる場合のトラブル 

相続人が想像以上に多い 

再婚歴がある場合や、前婚の子どもがいる場合は特に注意が必要です。たとえば現在の配偶者が知らなかった子どもが相続人として現れるケースもあります。

また、子どもがいない場合には兄弟姉妹や甥・姪が相続人になることもあります。その結果、
 ・連絡先が分からない
 ・関係が疎遠で話し合いができない
 ・相続人全員の同意が得られない
といった問題が起こることがあります。

手続きが進まなくなる 

遺産分割協議は相続人全員の参加が原則です。一人でも連絡が取れなかったり、話し合いに応じなかったりすると、
 ・不動産の名義変更
 ・預金の解約
 ・財産の売却
などが進められません。

そのため、相続人が複雑な家庭ほど遺言書の重要性は高くなります。

相続トラブルを防ぐためにできること 

元気なうちに家族で話し合う 

相続対策というと財産の話ばかりに目が向きがちですが、まず大切なのは家族間の意思共有です。

 ・誰に何を残したいのか
 ・実家をどうするのか
 ・介護を担った家族への考え方

などを事前に話しておくだけでも、後々の誤解を減らせます。

遺言書を作成しておく 

最も有効な対策の一つが遺言書の作成です。遺言書があれば、故人の意思を明確に示すことができ、相続人同士の話し合いによる負担を大きく軽減できます。

特に、
 ・不動産を所有している
 ・子ども同士の関係に不安がある
 ・再婚家庭である
 ・特定の家族に多く残したい
といった場合は、早めの準備が望ましいでしょう。

まとめ

遺言書がない場合、相続は法律に従って進められます。しかし実際には、家族の感情や過去の関係性、不動産の扱いなどが絡み、思わぬトラブルに発展することがあります。
相続でもめる家族の多くは、もともと仲が悪かったわけではありません。「話し合えば分かると思っていた」「まだ先の話だと思っていた」というケースが少なくないのです。

大切な家族が争うことなく、故人を穏やかに見送るためにも、元気なうちから相続について考え、必要に応じて遺言書の作成や専門家への相談を検討しておくことが大切です。