葬儀の基礎知識
エンバーミングとは?湯灌との違い・メリット・費用を解説

「エンバーミング」という言葉を知っていますか?聞き馴染みのない方が多いかもしれないエンバーミングとは、生前の元気な姿に近づける遺体保存技術のことを指します。火葬がほとんどで湯灌(ゆかん)の方が一般的である日本ではエンバーミングはあまり普及していませんが、アメリカでは90%以上の人が行っている処理方法です。
今回の記事では、エンバーミングの役割や処理の流れ、エンバーミングのメリット・デメリット、エンバーミングを行う際の注意点などについてご紹介します。
エンバーミングとは?
エンバーミング(日本語訳:遺体衛生保全)とは、ご遺体に殺菌消毒や防腐処理、修復を行った後に化粧を施し、生前の状態に近い姿に整える処置のことを指します。
エンバーミングは、もともとアメリカで発展した技術で、アメリカやカナダでは90%以上のご遺体がエンバーミングを行っています。日本では1974年に川崎医科大学で初めて導入されました。
エンバーミングを行えるのは、資格を持ったエンバーマー
エンバーミングを行えるのは、資格を持ったエンバーマーです。日本では、1988年に日本初のエンバーミングセンターが設立され、1993年には自主基準研究会が設立。ここで初めてエンバーミングの自主基準が制定されました。そして、2009年には一般社団法人日本遺体衛生保全協会(IFSA)が設立され、現在はエンバーミングの普及活動や技術向上を行っています。
エンバーミングの流れ

エンバーミングの処理は以下の流れで行われます。
1)書類を提出する
エンバーミングを行うためには、いくつかの書類が必要です。必要な書類は以下の通りです。
・エンバーミング依頼書(同意書)
・死亡診断書(死体検案書)
・故人の生前の写真
これらをエンバーミング施設に提出します。写真は必須ではありませんが、提出することで顔の修復の際に参考にできるので、ご遺族が持っている故人のイメージに、より近づけることができるでしょう。
2)遺体を搬送する
安置場所からエンバーミング処理施設にご遺体を搬送します。
3)遺体を洗浄・消毒する
ご遺体の中の細菌やウイルスは死後も生き続けるため処理が必要です。エンバーミングでは、ご遺体の状態を確認した後に表面の洗浄や消毒を行います。これにより感染症を引き起こす可能性がある病原菌やウイルスを除去します。
4)洗顔や洗髪などを行う
洗顔やひげ剃り、産毛の処理、洗髪を行った後に保湿剤を塗り、顔や頭髪を整えます。
5)体内洗浄・防腐保全処置を行う
体の一部を約1cm~1.5cmほど切開して動脈から防腐剤などの保存液を注入し、同時に静脈から血液や体液などを排出します。その後、腹部に小さな穴を開け、胸腔や腹腔に残っている血液や残存物を吸引し、防腐剤を注入します。
6)縫合・洗浄を行う
メスを入れた部分や腹部に開けた穴を縫合し修復します。事故などで顔や体に損壊がある場合は、このときに損壊部分を修復します。縫合と修復の後は全身を洗浄してから、衣服を着せて表情や髪の毛を整えます。
7)化粧を施す
ご遺族から希望がある場合は化粧を施します。
8)搬送する
エンバーミング施設から安置場所へ搬送します。
エンバーミングのメリット・デメリット

日本ではあまり普及していないエンバーミングですが、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
エンバーミングのメリット
エンバーミングのメリットをご紹介します。
ドライアイスの処理が必要ない
通常は、ドライアイスを使用してご遺体の腐敗を防ぎ、火葬まで保存します。ドライアイスの使用量は冬場で20キロ程度、夏場は40キロ程度必要だと言われていて、火葬までに日数がかかる場合は1日あたり1万円前後のドライアイス代が追加で必要です。
一方、エンバーミングを施すことでご遺体を常温で保存できるため、火葬まで日数がかかる場合でも腐敗の心配がありません。
故人とのお別れの時間がつくれる
エンバーミング処置をしたご遺体の保存期間は最大で50日間と長期保存が可能なため、ご遺族の方とゆっくりお別れの時間をとることができます。通常、ご遺族は葬儀の準備などに追われてしまうため、故人とゆっくりお別れの時間を過ごすことができませんが、エンバーミングを行うことで葬儀の日程を急ぐ必要がなくなるため、そういった時間をつくることができます。
保冷室に入れずに保全できる
エンバーミング処置を行ったご遺体は常温で保全できるため、ドライアイスを用いたり保冷施設に入れたりする必要がありません。また、ご遺体の凍結もしくは凍傷を起こす心配がないことに加え、ご遺体に触れたときの冷たさも軽減されます。
細菌やウイルスの感染症を防ぐ
ご遺体の約6割は、何らかの細菌もしくはウイルスを持っているといわれています。ウイルスは数日間であればご遺体の中で生き続けることが可能で、細菌に関しては生死に関わらず栄養物があれば活動や増加を続けるため、ご遺族の方がご遺体に触れることで感染する可能性があります。主な感染症は、結核・インフルエンザ・B型肝炎・C型肝炎・HIV・MRSA・敗血症などですが、エンバーミングを行うことでそれらの予防が可能となります。
エンバーミングを行うことでご遺体の黄疸や水泡の発生、異臭、腹水なども予防できるうえ、死後硬直が起きないため、ご遺族や参列者は故人と触れ合ってお別れができます。なお、エンバーミングでは防腐処理を行うため、ドライアイスの費用はかかりません。
生前の姿に近い状態でお別れできる
エンバーミングではご遺体の状態を修復するため、生前に近い姿でお別れができます。口の開きや眼球のくぼみ、表情を元のきれいな状態に戻したり、事故などで損傷した部分をきれいに修復したり、顔色など皮膚の色を調整したりすることが可能です。エンバーミングを行うことで、ご家族や参列者のショックを軽減することもできるでしょう。
エンバーミングのデメリット
エンバーミングのデメリットをご紹介します。
ご遺体にメスを入れる
エンバーミングでは血管に防腐剤を注入するため、皮膚にメスを入れます。傷は最小限ではありますが、故人の体にメスを入れることに抵抗があるご遺族もいるかもしれません。
故人と離れる時間がある
エンバーミング施設にご遺体を搬送するため、搬送・処理を行う間はご遺体と離れなければいけません。すぐに自宅に連れて帰ってあげたい、ご遺体と離れたくないという方にとってはつらい時間になる可能性があります。
エンバーミングにかかる時間はご遺体の状態によりますが、一般的には3~4時間だと言われています。ただし、地方の場合はエンバーミング施設に移送する時間がかかる場合もあるので、半日以上はかかると考えておくべきでしょう。なお、エンバーミングの施術には立ち会えません。
葬儀とは別に費用がかかる
エンバーミングを行う場合、15~25万円ほどの費用がかかります。これは葬儀費用とは別になるため、葬儀費用に上乗せして支払わなければいけません。ただし、エンバーミング処理をせずに、長期間ドライアイスだけでご遺体を保全する場合はかえって費用がかさむ可能性があります。
エンバーミング依頼する際に注意すべきこと

ここではエンバーミングを依頼する際に注意するべき点についてご紹介します。
家族に相談する
エンバーミングを行う場合は、必ず体にメスを入れなければいけません。もちろん、傷は目立たないように仕上げてもらえますが、ご遺体にメスを入れることに抵抗を感じる方もなかにはおられます。エンバーミングを行うことで家族間のトラブルに発展しないように、話し合いを行い家族全員が納得してから依頼するようにしましょう。
専門業者へ依頼する
先述した通り、エンバーミングを行えるのは専門知識と高度な技術を持ったエンバーマーのみです。しかし、日本ではまだエンバーマー資格に関する法律が整備されていないため、トラブルに発展する可能性も。大切なご遺体を安全にエンバーミングするためには、信頼できる業者へ依頼する必要があります。







クチコミ件数
1,524件平均評価
4.9